「花の名前」を少し語ってみた。 - 花の名前(3)



花の名前(3)/斎藤けん(Amazon)


この漫画は非常に面白く、私がとても大好きな漫画のひとつです。
この3巻で益々好きになりましたよ。
3巻を読んだ翌日に、思わず1巻から読み直していました。



この漫画は、高校一年の時に両親を事故で失った少女・水島蝶子が、遠縁の親戚である小説家の水島京(けい)の家に居候するというお話。
心に闇を抱えた二人が共に生活する中で闇を振り払い、気持ちを育んでいくのです。
蝶子が可愛らしい女性なのは当然のことながら、偏屈な小説家である京もネガティブでありながら格好良くそして可愛らしい男なのも魅力。
二人は一回り離れているのですけどね。



蝶子の闇は両親を失ったことからきていることは第1話から明確でしたが、京は狂気と孤独が自身の闇から染み出たような小説を書くくらいにしか描かれておらず、1巻の時点ではそういう小説を書く浮世離れした男という印象でした。


1巻は、蝶子と京それぞれのモノローグでの過去話が結構あり、それが違う話でそれぞれの視点からのモノローグで描かれているのが非常に印象深く、面白いのです。
現在進行形での話の中に回想を小出しに挿入していく演出が、どこか文学的なこの作品の雰囲気とマッチしていて相乗的に魅力を増していると思うのです。
後述しますが、この回想での演出は3巻では更に顕著…というかほとんど回想です。
それはさておき、1巻はそれ単体で見ても1つの作品として十二分に楽しめる程の完成度があると、個人的には思っているので興味がある方は是非読んでください。



以下、軽いネタバレもあります。



2巻では打って変わって、蝶子が大学のサークルに入ったことにより、1巻での蝶子・京・京の大学時代の友人で担当編集の秋山の3人がメインの状態から、グッと明るい雰囲気になりコミカルさが増しました。
この変化は賛否両論ありそうですが、私は好きです。
登場人物が増え世界が広がっていますが、蝶子が京をより意識し、京もそれに気付き蝶子を思いながらも「自分は救われてはならない」と思っているため避けてしまうなど、二人の関係は刻々と変化を続けており、二人の恋慕においては良いエッセンスになっていると思うのです。


2巻では1巻で多く見られた回想がほとんどなく、後付はあるにしても、多くの伏線が散りばめられているのが印象的。
そして第10話で、伊織という女性が登場し京が家を出てしまうという状態で、3巻へと続きます。



3巻。
2巻とは一転してシリアスな一冊。
京、蝶子、秋山のモノローグによる回想が大半を占めており、過去の一端が明らかになります。
1巻以上に文学色が強く、好きな人は好きだろうけども、受け付けない人はとことん駄目な漫画だろうなと思わされます。
特に京の性格とか。


京が蝶子から離れ、戻ってきた時に酷い事を言うなどは、過去があるにしても多少の身勝手さを感じたものです。
が、京がいなくなったことにより蝶子が無気力になったり、戻ってきた京が蝶子に当たった上で、京が蝶子に癒され救われ、気持ちが通じ合う描写はグッとくるものがありました。


帰ってきた京に対して庭に咲く花を背に蝶子が凛と答える場面を始め、効果的に花が描かれているのが印象的で。
それがこの作品の最大の特徴でもあると思われて仕方がありません。


気持ちが通じ合った後の、京の豹変っぷりというかベタベタっぷりはラブコメ好きの私には堪らないものがあります。
ギャップを感じますが、むしろそれが良い。



京の闇は母親の死に際に起因しているのは明確ですが、大学時代に闇に堕ちた理由は伊織に母親の面影を見、望むままに追い詰められたからだけなのでしょうか。
5・6年の書いていない期間がそれに当たるはずですが、その辺りの闇に捕らわれていた期間の描写はまた描かれることを期待しつつ。
あとは蝶子の両親の事故なんかも大きな伏線として残っているので、気になりますね。



1巻から読み返して思ったのが、秋山の存在が大きいこと。
大学時代の京の友人で、現在は出版社に勤め京の担当。
彼は色々なモノを繋ぐ役割を担っていると思うのですよ。
3巻を読んでつくづく思った京と蝶子を繋ぐ役割だったり、どこか浮世離れした生活をする京と蝶子を「日常」と繋いでいたり、蝶子のサークルの面々を蝶子と違う部分で二人と繋いでいたり…
彼は名脇役だ。



何か長くなってしまいましたが、好きな作品であるというのと、作中で秋山やサークルの面々が文学について語り合った場面に触発されたからこういう更新になったのでしょうね。
こういう少し語っているような感想も、ヒマを見てやっていけたらと思います。



花の名前 第3巻 (花とゆめCOMICS)

花の名前 第3巻 (花とゆめCOMICS)