パロディ満載のセカイ系百合漫画「SCAPE-GOD」



SCAPE-GOD/高遠るい(Amazon)


「CYNTHIA THE MISSION」の高遠るい先生の新刊。
私は「CYNTHIA〜」は2巻までしか読んでないですが、オビの「セカイ系SF百合バイオレンスアクション神伝奇」という文字に惹かれて購入。
百合好きとしては見逃せません。


しかしタイプしてみると長い売り文句な!
後半の話のタイトル部にある、セカイ系SF百合バイオレンスアクション米帝風刺ゆかいまんが」ナチュラルボーン人間不信百合まんが」も長くも良いキャッチコピーだと思いますよ。




■その世界感と演出

何の前触れもなく「特異」と呼ばれる怪物が現れ、交通事故死と同じくらいの確立で怪物に殺されることもある世界。


母親は特異により亡くなり、父親は借金をこさえて蒸発し、不幸を背負い生きる少女・牧原緑。
彼女の人生は神である「ひつじさん」と出会うことで大きく変わってゆく。

神であるひつじさん(羊のような角があるので緑により命名)は滅ぶ定めの宇宙を、その不運を一身に受けることで宇宙の消滅を回避しました。
その代償として永遠の苦痛をもって購う、すなわち未来永劫において「特異」と戦うことになったのです。


特異により家庭が崩壊した緑はひつじさんと激しく口論し、そんな中で特異により友人の死が転がります。
人間を守って欲しいと頼み「ひつじさんをひとりにしない」と誓った緑は、ひつじさんと歩んでいくことになるのでした。



緑とひつじさんの関係を「特異」という不安要素のある世界を通じて描いている「セカイ系」の漫画です。
冒頭での緑の告白とその話の中でその相手が目の前で死亡、と1話目からかなりヘヴィー。


1巻完結と短いながらも、各話と各話の間で数日〜数年の時間をすっ飛ばして経過させることで、かなり壮大な物語を演出することに成功しています。
面白い漫画なのですが、それ故に万人受けしない漫画とも言えるでしょう。



2話目以降の中盤は1話目とは打って変わって、元々パロディの多いこの作品においてコメディ要素が多く、それにより打って変わっての終盤のシリアス展開は引き立っており、全体を通して見るとバラエティに富んでいて良いなぁという印象。
ページ数の関係か、ともすればアッサリとして見える戦闘もテンポの良さを演出していて好印象でしたよ。




■神話・パロディ


「特異」と呼ばれる怪物は、神話や伝承上の神や悪魔の姿で現れます。



メインとなる特異は名前と供にコマに現れ、直接ストーリーには絡まないもののその演出と出典のバラエティ豊かさにはメガテニストとして熱いものを感じずにはいられません。



各話の後にその話での登場「特異」解説があり、それがまたツボを刺激します。
結構、伝承に基づいて描かれていて出番が少ないのが勿体無いと思うほど。


設定面でも神話・伝承をモチーフとしたものがあり、それを踏まえてた上で読み返すと新しい面白さが見つかりますよ。



神話・伝承をモチーフとしたもの以外に、この漫画にはパロディやオマージュが非常に多い。


1話目のモブキャラで「CYNTHIA THE MISSION」の主人公・シンシアが出ていたのには、おおっ!と思ったものですが、そんなものは序の口。
セリフ、演出、サブタイトルなどなど至る所にパロディが詰まっています。
パロディやオマージュの元ネタは漫画やTV、時事ネタまでと幅広くニヤリとさせられます。


それでいてパロディに頼っているというわけではなく、作品の大筋はしっかりしておりパロディすらもそれの一部に取り込んでいるフシがあるくらい。



そしてこの単行本の特徴のひとつと言えるのが、ライターの前田久氏による詳細な解説。


各話の後に収録されている解説には、パロディ・オマージュの元ネタがふんだんに解説され、神話を元にした演出までも解説されています。
普通に読んだだけでは気付かなかった元ネタを知ることができ、読んですぐ元ネタ解説があるとここまでパロディは楽しめるのか!と再認識できる漫画だと言えるでしょう。


最後のページには総論もあり、解説と漫画が一冊にまとまっていることで、この漫画は漫画を読む目が変わるきっかけになり得るんじゃないかとさえ思えます。




■そういう漫画でも百合は良いものです


この漫画はキャッチコピーの通り、主人公である緑が百合っ子です。



告白相手は女の子で、ひつじさんと風呂に入る時には密着、隣の部屋の諜報員とはアレなことになったり。
どちらかというと百合というよりも、レズに近いキャラですね。



中盤でひつじさんと対立するキャラをも性欲の対象としている辺りがもういっそ清々しい。



しかしながら単なる百合キャラというワケではなく、百合っ子であることや1話で百合っ子であるが故の発言が終盤の展開の大きな伏線となっている辺りが熱く侮れません。



ScapeーGod (電撃コミックス)

ScapeーGod (電撃コミックス)