透明感溢れる純愛オムニバス - バス走る。



バス走る。/佐原ミズ(Amazon)


佐原ミズ先生の短編集です。
4月に読んだ「マイガール」が良かったので購入。
1000円を超えるコミックスと少し値が張りますが、装丁は豪華でしっかりしており、内容を含めて考えると、個人的には満足できる値段でした。



■全体的な感想。


裏表紙の紹介では「バスの停留所から彩られた淡く透明なオムニバス」。
7本の短編を収録しており、「バス走る。」と「ナナイロセカイ」の二つに分かれています。
淡く透明な純愛オムニバスという言葉がしっくりくる内容ですね。



収録作品の多くは、二人の男女が”付き合いだす”まで、あるいは”相手を意識し始める”まで、もしくは”何か大切なことに気付く”までを描いています。


持論として「続きが読みたくなる読切りや短編は良い作品」というものがあり、そういった点でこの短編集は良いですね。
これから輝きを増した新しい生活へと続いていく終わり方が多いので、「この先がラブコメ的にオイシイ展開になるんじゃないか!先を読ませろ、うがー!」と、続きを想像させられます。
まぁ、漫画としては付き合うまでが一番盛り上がるとも思っているんですが。



以下、各短編の感想。
多少、ネタバレを含みます。


■バス走る。


本のタイトルともなっている「バス走る。」のパートは、コミックバンチに掲載された4編と、手作り絵本展を初出とする1編の計5編。
バンチ掲載分はバスの停留所を絡めた純愛ストーリー。



◇空曲がり停留所  25ページ、Cカラー


営業職の会社員と女学生の話。
上手く契約がとれない会社員が、「飛行機を1日10回見たら願いがひとつ叶う」と言う少女に出会い、彼女から元気を貰う。
後日、落ち込んでいる少女に彼が元気をあげる、というもの。


大人も学生も楽ではなくて、普段の生活では接点の人の何気ない一言で少し前に進む力を貰えたりするんだよなぁ。
学生側の「頑張ってもどうにもならないこと」ということが恋愛であることに、「社会人は出会いすら少ないんだよ!」と思ったのは私のひがみです。



さくら町停留所  16ページ


高校教師が卒業する女子生徒に「大学を卒業したら迎えにくるから嫁になって」と言われたお話。
4年経っても彼女は現れず、5年経ったというところから回想が始まります。


教師の男がどこか頼りなくて女生徒が男前な発言をすることと、結末も含めて可愛らしい短編だと思います。


私は普段、バンチをあまり読まないのですが、たまたま立ち読みした時にこの漫画を読んでました。
そのままタイトルとかを忘れてしまっていたのですが、また巡りあえて嬉しい限り。
それだけに妙に思い入れができた作品。


◇忘れ名ヶ岡停留所  20ページ


高校時代に片思いしていた男友達から、結婚したという手紙が届いた女性のお話。
恋人のいる彼は自分をみてくれない。それでも見て欲しかった。
そんな回想と、女性の近所に越してきた男性に声をかけられる現在から構成されています。


過去の自分と重なる行動で、何年越しかの自分の中にあったモヤモヤが氷解。
他の「バス走る。」の話でもそうですが、”他者からのきっかけで前に進める”ということもひとつのテーマになっているんじゃないかなぁ。



◇天気読み  6ページ


司法試験の浪人生の話。
自分の目指しているところまで先に辿り着いた彼女に嫉妬し、見限られる不安から別れたようで、それがまた気持ちを沈ませていくが…


漫画そのものの感想じゃないんですが、短い作品は展開を全て書いてしまいそうで、感想が書きにくいです(笑)



◇ダドレアの路  20ページ、カラー


全ページカラーの絵本風の作品。
この作品のみファンタジーで、絵本なのでフキダシも無く、他と比べ異彩を放っています。
本のど真ん中に持ってくることで、全体が引き締まっている印象。
作品内容そのものは、個人的にはあまり肌に合いませんでした。



■ナナイロセカイ


白泉社のメロディに掲載されていた短編2本。
1本あたりのページ数が「バス走る。」の作品よりも多くて読み応えがありました。
学生、付き合っていない男女、という二人を描いた話で、誰もが通ってきた経験があると思うので懐かしさや共感を覚えるんじゃないでしょうか。



◇めがね泥棒  41ページ


加納と秋乃、席が隣の高校生二人のお話。
収録作品では一番ポップな感じで好きです。


感想を書く上で、楽しむために致命的な部分があるので反転しておきます。


お互いに相手のことを鈍いと思っている片想い同士で、相手の気を引く為にしていることがあり、途中で視点がそれぞれに切り替わり、相手をどう思っているのか語られていきます。
それにより、読んでいて相手のことを好きということが伝わってくるのが良いですよ。

青春だなぁ。床を転がりたくなる衝動に駆られる。
終盤の勢いにまかせた展開が堪らん。



◇オトナの制服  40ページ


中学生の幼馴染の少年少女の話。


少女が恋や付き合うということが解らないことで、伝わってくるのは”ドキドキ”ではなく”ヤキモキ”と言ったところでしょうか。
周囲の生徒を通して、幼馴染の少年への感情に気付き始めるのを描いています。
ちょっとシリアスめで、最後に収録というのは良い位置。


「ナナイロセカイ」は場面ごとにパートに分けられており、これは長く描けば短期連載漫画としても作れたんじゃないかと思います。
短期連載を短くしたような感じとも言えます。
短編で場面の切り替えが多い漫画を描くのに上手いと思います。
切り替えが多いということは、詰め込みすぎな印象も受けますが、結構好きだなぁ、こういうの。



■既刊レビュー
温かさと切なさを併せ持つ父と娘の物語 - マイガール(1)


バス走る。 (BUNCH COMICS)

バス走る。 (BUNCH COMICS)