素晴らしい百合を描く作家・乙ひより、初単行本『かわいいあなた』
百合姫に登場した期待の新人・乙ひより。
乙ひより先生の初単行本「かわいいあなた」が発売されました。
ヤバイ、ヤバイよ。百合的に。
初の単行本にして、このクオリティ。
百合好きには堪りません。
何度読んでもこう、胸がキューっとなります。
この処女単行本「かわいいあなた」は、百合姫に掲載された5本の短編と1本の書き下ろしを収録。
いずれも、少女の透明感溢れる感情が素晴らしい。
感情の描き方が丁寧ですし。
では、各作品の感想に行きましょう。
■Maple Love
大学の中庭(?)の物陰で昼寝をしていた楓。
すぐそこで男が女の子に告白してフラれ食い下がっており、早く終わって欲しいと思っていたところに、携帯が鳴って見つかってしまいます。
男は去り、その女の子・宮路が男を振った理由が「女の子が好きだから」。
いきなりキスをしてきた宮路を、楓は平手打ち。
翌日、宮路は楓に告白しますが、楓は「好きじゃないので付き合えません」と一蹴。
それならば、と友達になる二人。
そんな感じの導入をするお話。
個人的には収録作品で一番好きな作品です。
他の収録作品がどれも高校を舞台としている中、この作品は大学が舞台。
一人は女の子が好きな女の子で、一人は普通の女の子。
宮路は可愛い女の子で男にモテて、女の子の評判はあまり良くはありません。
楓はちょっと天然気味な女の子。妙な偏見を持たない娘だと感じます。
何が良いって、楓の感情の変化が自然に感じること。
もちろん、漫画なのでドリームな脚色がされているのは承知しているのですが、それでも自然に感じるのですよ。
友人に”友達と恋人の違い”を問い、得た回答から自分の気持ちを自問自答するくだり。
『好きじゃないので付き合えません』
『じゃあ今は?』
ここから先の楓の行動と、宮路の気持ちと、その展開が良すぎる。
■ラブレター
幼馴染の女友達に思いを寄せる少女の話。
高校を舞台にした漫画の中で、唯一明確に共学であり、幼馴染が男子に片想いをしている作品。
設定だけでもう、悲恋ですね。
幼馴染に、片思いしている男子宛のラブレターを渡して欲しいと頼まれる展開だけで切ないのに、主人公が持つ感情の行き場・決着がまた切ない。
■星空サイクリング
体の弱い桃子と、転校したてでゆっくり登校する桃子に声をかけたマコ。
それから一年ちょっとの間ずっと、マコのこぐ自転車で登校する二人。
そんなある日、体が丈夫になってきた桃子はまた転校することに。
思い出作りに流星群の観測会に参加することにした二人が願ったこととは…
突然告げられた仲のいい友達との別れ、そうなって初めて気付いた感情。
そして、ずっと秘めてきた気持ち。
いやぁ、想いが伝わるっていいね!
それが百合漫画としてのカタルシスのひとつ。
この漫画の続きが読みたい。
書き下ろしがこの続きだったなら良かったのだけど。
それでも、私は約束を果たした二人の話を期待してます。
■かわいいあなた
表題作。
見た目に凛々しいまりあが演劇の王子役に推薦されます。
それを受けて、可愛いくもキツい印象を持つあかねが姫役に立候補。
まりあは、見た目の凛々しさから「おかま」とからかわれた過去を持ち、現在でも見た目のイメージで周りから扱われています。
性格は気が弱く、可愛らしい性格。
一方のあかねは、姫役が似合う外見ながら、キツい印象は性格から滲み出ており、敵の多い少女。
まりあの性格の本質を知っているのはあかねだけで、あかねはまりあ以外は必要ないという行動を取っています。
キモとなってくるのは、”性格の本質まで見ずに、見た目のイメージでまりあを扱う周囲”と”外見に囚われずに、まりあの性格の可愛らしさを見て接するあかね”、”自身の外見と性格にコンプレックスを持つまりあ”。
あかねの「まりが以外不要」と言わんばかりの行動がカッコ良すぎる。
百合の醍醐味は感情の揺れ動き・触れ合いなのですよ。
■冬色思い
手芸部に入部しにきた一年生・静香。メガネっ娘。
そこに一人いた二年生・祭先輩。言動、ややヤンキー気味。
静香は祭先輩が好き。
祭先輩は三年のあや先輩が好き。
卒業を控えたあや先輩に対する祭先輩が純情でかわいい。
そのかわいらしさが静香が惹かれた部分でもあるのですが、好きな人に好きな人がいて、それを知った上でその行動を見るのは切ないよなぁ。
片想いが二人、という状況で展開される話が堪りません。
両想いでない、というのが現実の恋愛を彷彿とさせて切ない。
胸がキューってなる。
■ココロ弁当
書き下ろしです。
「冬色思い」のサブキャラのお話。
まさか、こういう話を持ってくるとは思いも寄らなかったなぁ。
静香のクラスメイトの泉が、元気の無い静香に弁当を作る話。
泉が結構、おバカな娘で料理も下手ですが、心を込めて静香の為に弁当を作るに至り、作って渡すまでの気持ちの動きは微笑ましい。
ラストのコマが無くても十二分に百合。
恋愛感情だけでなく、友情でも百合を感じるものです。
- 作者: 乙ひより
- 出版社/メーカー: 一迅社
- 発売日: 2007/07/18
- メディア: コミック
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