オタクにも一般人にも居心地の良さを感じさせる名作 - げんしけん



げんしけん/木尾士目(Amazon)


さっき一気読みを終えたのですが、やはり「げんしけん」は名作ですね。
通して読むと、伏線や以前の出来事を踏まえた展開が心地良くて、本当にオタクとして憧れてならない。
オタクを描いた漫画として、各所に圧倒的な影響を及ぼした魅力を再確認しました。


げんしけん」はオタク特有の感覚・行動などがメインの前半と、笹原と荻上の恋愛メインの後半に分けられると思います。
今回はオタクを題材とした漫画レビューとして、オタクの生態を多く書いた前半をメインに。


オタクには共感を

この「げんしけん」という漫画は、主人公・笹原の大学生活4年間の期間のお話。
オタクであれば一度は読んでおくべきだと思います。
また、オタクでなくとも漫画好きなら読んで欲しい傑作。



笹原はヌルいオタクで、第1話で大学のオタクサークルに入ろうと決意します。
そこで入った「現代視覚文化研究会」で自分より深いオタクと出会い、エロゲーや同人誌などのディープなオタク趣味の世界に触れるのが序盤の展開。


オタクとしてヌルいといえる笹原を主人公としつつも、笹原は性格的に意志が強いキャラではなく印象も薄いので、同じ一年でディープなオタクで天然な高坂と、高坂にホレている気の強い一般人の咲、それに先輩でオタクとしてある種完成形とも思える斑目の印象が強い。
あとはコスプレイヤーの大野さんも強烈なキャラで好きですし、そうなってくると田中も忘れられない。
あれ、ほぼ全キャラ印象強いや。



笹原はかなり出番があるものの前に積極的に出てくるキャラではない、そんな主人公だから現視研というコミュニティそのものが主人公と感じます。
現視研というサークルは漫研アニ研のような活動目的も明確に無いゆるいサークルで、それが本当に心地良く感じられ憧れます。


そう、20代後半以降の人が究極超人あ〜る」を読んで光画部に感じたような居心地の良さ
グダグダで適当で仲が良い、今思い出せばモラトリアムとノスタルジィを感じてやまないあの空間。
好きなものについて語り、好きなことをして、時にはひとつの目的に向かう。そんなある種の理想的なコミュニティ。
そんなサークルや部活、コミュニティはなかなか無いと知りながらも憧れてやまない。
だからこの漫画は、学生時代を過ぎて社会人になった人でも、連載時・今現在を学生生活を過ごしている人にも、年齢関係なく受け入れられて楽しまれているのでしょう。



そういった憧れを感じる舞台で織り成されるオタクライフは、もう共感しまくりですよ。
ヌルいオタクだった笹原が、ディープな経験を積んでいく過程があるから尚更。
全編通して共感できる部分は多いのですが、取り分け1巻の共感密度は高すぎる。名言も多いです。


二次創作やエロゲーに手を出したオタクなら「一線を越えた経験」が何度かあるはずで、「俺に足りないのは覚悟だ」がもうそれを思い起こして堪らんです。
アキバの同人ショップで同人誌を買う場面も、「ああ、あの時はジャンル買いだった。今はサークル買いだなぁ」などと思って妙な気分になれます。
しかし、斑目の買い方は漢だなぁ。漢買いだ。



細かいところをピックアップすればキリがないのですが、オタクにとって共感できるオタクネタは読んでいて相当に楽しい。
そういう点でも妙にリアルな共感が得られるこの漫画は特筆すべきものがあります。


あと、経験したことはないのですが、一度はコミケでサークル参加をして同人誌が売れた時の「むはー」を体験してみたいものです。


一般人には理解を

さて、この漫画は非オタクの一般人の方でも十二分に楽しめる漫画だと思います。
そのひとつのポイントが、一般人でオタクの彼氏を持つ春日部咲の存在。
オタクでなければ普通に理解できない感覚を、オタクではない咲というフィルターを通すことで受け入れやすくしているはずです。



私の周りの話ではあるのですが、オタクの友人と、彼のオタク趣味をある程度容認している一般人の彼女がおり、彼のオタク趣味を容認はしていたものの「オタクの感覚が解らない」と言っていました。
その友人もご多分に漏れず「げんしけん」にハマり、その彼女が読んだ感想が「この漫画、面白い!オタクが少し解った気がする。私も現視研に入りたい!」でした。
程度の差こそあれ、高坂と咲の関係に近い状況があり、またオタクでなくとも現視研の持つ”居心地の良いコミュニティ”に対する憧れを感じていたようです。
当初の笹原が”一線を越えれていないオタク”で、そういうキャラが主人公だということも大きいかもしれません。


これ、オタクの彼女を持つ一般人男性が読んだらまた違うんでしょうね。
現視研に対する居心地の良さは感じるんじゃないかと思うのですが、オタクに関してはどうなんだろう。
男性オタクの感覚に対しては、エロ同人のあたりなどに関してある程度の共感はあるんじゃないかと思います。
女性オタクの感覚に関しては、大野さんと荻上の趣味あたりをどう思うのかがポイントなんだろうなぁ。



とはいえ男女限らず一般人でも、現視研という”居心地の良いコミュニティに対する羨望”は感じるはず。
オタク趣味でなくとも趣味について語りたいでしょうし、その趣味を存分に語れる場は欲していると思うのです。


オタクだから、恋をした。

げんしけん」としてサークル参加を終えたあと、または斑目・田中・久我山が卒業したあたりから、笹原と荻上の恋愛の割合が増えていきます。


田中と大野さんの趣味が合うオタク同士のカップルが理想ですが、笹原×荻上も堪らなく良い。
もうね、ニヤニヤが止まりません。
デカすぎるトラウマ、しかもオタクでしか経験し得ないトラウマを抱えた荻上。それを乗り越えて結ばれた笹原と荻上
恋愛漫画として堪らなすぎる。


連載時には恋人になったものの、いきなり卒業直前まで話がすっ飛び絶叫したのも良い思い出。
それ故に単行本の書き下ろしが何倍も楽しめたものです。


ブコメは「結ばれてハッピーエンド」と完結する漫画が多く、一番オイシイところである「付き合い初めの初々しさ」とニヤニヤが止まらないラブラブっぷりは二次創作や単行本のオマケで補完が多い。
そういう意味で、恋愛漫画のオイシイ部分を連載では書かずに単行本描き下ろしとしているのが、同人活動と密接に関わった漫画の「げんしけん」に合っていてニクイとすら思えます。
各巻の描き下ろし4コマも、オタクのツボを心得たものでニヤニヤですよ。



ところで、げんしけん」の最萌えキャラが斑目なのは譲れません
咲への恋心が、切な過ぎる。
恋愛面で共感、といったら斑目の行動や踏み出せない気持ちに激しく共感せざるを得ません。
斑目は総受けですよ。


評点

ここまで長くなりすぎたので、「オタク漫画紹介録」用の評点は簡単に。

面:5 オタ:5 パロ:5 共:5 痛:4 萌:5 燃:2


好きすぎる漫画なので、高評価にせざるを得ない。
面白さ・オタク度・共感は勿論、5。
パロディは実在の作品と架空の作品と織り交ぜているので4とも思ったのですが、「くじびきアンバランス」が単体で連載中なので5に。
個人的に痛さのほとんどは、ハラグーロです。
萌えは、メインキャラはほぼ可愛い。読み返すとクッチーすらそう思うから不思議です。
燃えは、基本ゆるい漫画なのでほとんどありませんが、ハラグーロと対峙した笹原、荻上の投稿漫画あたりに熱さを感じました。



いやぁ、もう名作すぎます。
サラッと読み返すつもりが、マジ読みしてましたよ。

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