痛さだけではない、前に進み続ける大切さを気付かせてくれる漫画 - ヨイコノミライ



ヨイコノミライ/きづきあきら(Amazon)


この漫画を読む度に胸に突き刺さるものがあります。
それは学生の頃の認めたくない自分の行動がダブるものであったり、今でも自分が陥りがちな思考や行動であったり。
ただ、そういった痛さだけでなく、前に進むための力をもくれる漫画です。


若さ故の過ち黒歴史にダブって、痛い

誰しも若さ故の過ち、自身にとって黒歴史と言える”痛い行動”があるもの。
それは青臭く、周りが見えず、独りよがりになりがちな中高生の時分に多いんじゃないかと思います。
ヨイコノミライ」ではそういった高校生の漫研を舞台としているから、痛さがあるのは当然とも言えます。
好きなことを話すだけだった部活で、編集を目指す部長が面白い漫画を作る部にしようとし、親に無理矢理に漫画を描かせられている少女が暗躍し部を崩壊させようとする、そんな展開から痛さがより際立っている。


自分の考えに合わない作品を駄作と叩き、自分の意見以外は認めない自称批評家。
他人の意見に耳を傾けることもなく、思い込みで行動する電波少女。
好きになった相手に、相手のことを省みず自分のことばかりを語り押し付けたり。
恋人ができたり自分より絵が上手くなった友人を妬み嫉み、また「自分は本気を出していないだけ」と行動している人に嫉妬したり。
好きな相手が他の異性と話すことに嫉妬し、そんな場面を見るのに堪え切れないから告白したり。
自傷行為や自分叩きでしか自分の存在を確認できなかったり。
先を考えずに理想を押し付け、傷付くのが嫌だから自分第一の保身で踏み込まないし、踏み込ませない。


全てが当てはまるわけではありませんが、いくつかは自分にも身に覚えがあります。
そして今でもしてしまいそうな行動や、どうしようもない感情もあります。独りよがりにならないように気をつけてはいるんですけどね。
オタクだからこその痛さもあれば、そうでない人にも当てはまることもあると思います。
そしてこういった痛さの描写は、自分を振り返るキッカケになります。


痛いだけではない、ここから何を受け取るか

また、ただ痛いだけの漫画ではありません。


家庭の事情から漫画嫌いになってしまっても漫画を描かざるを得ない境遇の青木杏は、学生らしい青臭さを持つ漫研部員に、そして根拠も無く理想を語る井之上に、部がメチャクチャになるように攻撃をします。
青木が漫画を描けること、暗躍していることも露知らない井之上の好意を嬉しく思いますし、跳ね除けても変わらず好意を寄せる井之上に「自分が望んでも、望むことすら許されない感情」を見たんじゃないかと思うのです。
また、大門の「自分で信じてもいないものが叶うワケない」という言葉にハッとさせられていますし、「思い通りにプレイできる自分の理想に近づきたいっていうのが一番で、選手はその理想とする目的のひとつで、サッカーをする目的ではなかった」と語る井之上にも感じるものがあったはず。
やりたいことをやれない青木を通して、ポジティブさも見ることもできるはずです。



若く歪みを持った少年少女のコミュニティに、コミュニティを崩壊させようとする少女が入ってきたことで、ラストへの人間関係はなるべくしてなったものと言ってもいいんじゃないかな。
この漫画から私が読み取り、感じたものは人間関係・コミュニケーションのひとつの形です。


崩れ堕ちていったのは、自分を客観的にみることなく、自分の物差しだけで判断し他人の意見を聞くこともなく受け入れることもなかった2人で。
自分のポジションを冷静に判断していた内田も、愛憎の対象である大門に嫌がらせすることで自分の存在を確かめるだけで自分を変えようとはしなかった。


自分の行動・感情をある程度でも振り返り、議論で欠点を突かれ叩かれても、他人の意見を無視せず少しでも受け入れ前に進もうとした者には、何かしらの道が見えていた。そんなラストだと思うのです。


一方的に「ホントの自分でつきあえるようでないとダメ」と押し付ける平松と、「好きなら何もかも話せば理解しあえるの?」と不安を持つ青木の考えの違いも面白いところ。
もちろん本当の自分を受け入れてくれる相手と付き合えるのが理想ですが、同時に相手のことも考え、だからこそ「理解してもらえるかどうか」で悩むのは必要なことだと思うのです。



そしてもう一つ。
夢や理想は叶わなければ意味の無いものか?潰れて消えてしまった夢はどうなるのか?
それに対してもひとつの回答を出しているのも、私がこの漫画を好きな部分。
ただ痛いだけでなく、どんな形であれ前に進もうという気持ちをくれる作品だと受け止めています。


評点

【 面:5 オタ:4 パロ:1 共:3 痛:5 萌:2 燃:1 】

業魔殿書庫・オタク漫画紹介録用の評点を。
万人にオススメとは言えませんが、面白いです。そしてオタクには痛さ全開。

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