少女達を待ち受ける残酷で凄惨な運命 - ブラッドハーレーの馬車



ブラッドハーレーの馬車/沙村広明(Amazon)


資産家のブラッドハーレー家は年に一度、各地の孤児院から少女を一人ずつ養子に迎えている貴族。
ブラッドハーレー家は「聖公女歌劇団」という歌劇団を持っていて、その女優達は全員が養女であり元孤児。
かの家に養女に迎え入れられ華やかな舞台に立つことが孤児達の憧れであるが、ブラッドハーレー家には表沙汰にできない裏の事業が…



沙村広明先生の新刊「ブラッドハーレーの馬車」は、重苦しく凄惨な話が苦手な方にはオススメできません。
女の孤児を引き取る貴族の裏の顔、とあれば何が行われているかある程度の想像が付くかと思います。



ブラッドハーレー家に引き取られ養女は各地の刑務所に運ばれ、無期囚の性衝動と破壊衝動のハケ口にされるのです。
囚人の暴動を未然に防ぐ目的で行われ、刑務所では”パスカの祭り”と呼ばれています。
この作品は”祭り”に関わった様々な人物を描く、残酷な物語。



この漫画は各話ごとにメインとなる人物が変わり、様々な立場の人物の視点でこの”祭り”が語られるのですが、第一話からして読んでいて気持ちが沈む。
ブラッドハーレー家の養女となり華やかな舞台を夢見ていた孤児の少女が、実際に養子になる話が来て屋敷からの迎えが来て、これからの生活への夢と希望を胸に抱いて馬車に乗るのですよ。
それが一転、着いた先は塀の中
待ち受けていたのはこの世の地獄、悪夢のような日々。
いや、”日々”ですらないかもしれません。
その日のうちに死んでしまうかもしれないのだから。
憧れが現実のものになると思った矢先、どん底以下に突き落とされる。
これを読んで気持ちが沈まないわけがありません。でも凄い漫画なんだ。


少女達を待ち受ける陵辱は、「無限の住人」を読んでいる方は百琳が受けた拷問を苛烈にしたものを想像していただければ良いかと。本誌を読んでいる方は最近のアレを思い出して頂ければ、そっちのが近いかも。
数十人の男に嬲られ、肉欲のハケ口としてだけでなく破壊欲の対象でもあり、日を追うごとに生贄にされた少女がみるみる傷付いていく第二話はまさに凄惨。
「傷付いていく」よりも「壊されていく」と言った方が正しい気すらします。



残酷で重苦しい物語ですが、ただ残酷なだけじゃないんですよ。
各話ごとにメインの人物が変わることで、生贄となる少女だけでなく、無期刑の男囚や、刑務所の守備兵、実際に歌劇団の一員となった少女など様々。
この”祭り”をただ陵辱されるだけの少女からだけでなく、他の立場の人間からも描いているのがこの漫画の面白さに繋がっています。
様々な立場の人間が語ることで”祭り”の実態やブラッドハーレー家の行いが少しずつ明らかにされ、謎に近づこうとした人間がことごとく悲惨な末路を辿り…
途中から陵辱シーンは少なくなっているものの、謎に近づきすぎた少女や、他人を蹴落として幸せを掴もうとしたりした少女が馬車に乗っていく幕の引き方に、その後に直面する逃れられない現実を思うと胸の中を掻き乱されます。
男囚の視点での話もあり、少女を陵辱することに対する罪悪感もありながらそれでも肉欲には抗えず、そしてその一人の男囚を待ち受けていたものは言葉にできないほどのもの。



どれもこれも重苦しくて救いのない話で、そのいずれもが声を大にしてオススメできないものの作品として面白い。
あとがきで「途中からどんどんエロシーンがなくなっていった」とありますが、一読者としてそれで正解だったと思います。
これでエロシーンが多かったら読めない人ももっと多かったかも。
そういえば、沙村先生の画集も「責め絵」ばかりの画集らしくて買うのを断念したんだよなぁ。ファンなんだけどな。



「おひっこし」のような主に黒い方のユーモア溢れる青春漫画も描きながら、この「ブラッドハーレーの馬車」のような救いのない重苦しい作品も描く二面性が、沙村先生の魅力のひとつ。そしてどちらも面白い。
またブラックユーモア溢れる漫画も描いて欲しいものです。
ともあれ今は「無限の住人」の最終章がどのような結末を迎えるか、それが楽しみです。


ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

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