好きだから、秘め続けなければならない恋 - マルスのキス
大学生の軽そうな彼氏を持ち、クラスで一番性的な意味での経験をしていると自負する女子高生・由佳里を主人公としたガールズラブストーリー。
由佳里は、休み時間に誰かと話すこともなくクラスで浮いている美希と席替えで隣の席になることに。
成績優秀で他人は気にしてないような涼しげな態度の彼女を「悩みのないガリ勉の処女野郎」と見下していました。
そんなある日、由佳里は誰もいない日の差す美術室で美希がマルスの石膏像とキスをしている姿を見てしまい、2人は話をするようになる…というお話。
口うるさい母親と衝突が絶えず、クラスメイトにも心の中では悪態をついている由佳里は、当然のように美希を見下してたわけです。
そんな相手の”見てはいけないような光景”を見てしまい、それがキッカケで気まずいながらも話すようになったその相手は、思っていた通りのところもあるものの、抱いていた印象とは違う少女でした。
見下していたクラスメイトから、楽しく話せるへ。
思っていた通りにウブな美希にする恋愛話は、すぐに顔を赤らめる素直な反応が楽しくて。
でもそんな美希の純朴な反応を見ていると、彼女に比べて自分はどうなんだろう?自分のしている恋愛は幸せなんだろうか?と感じてしまう由佳里。
自分は好きだけど、彼氏は自分のことを好きなんだろうか。いや、本当に彼のことが好きなんだろうか?
そして、母親との衝突した時に話を彼氏は聞いてくれなかった。
よく話をしているクラスメイトに内心で悪態をついているだけに、彼女たちと本音で話せているはずもなく。
最近話すようになった美希だけが、イヤな顔をせず包み込むように受け入れてくれた。
本心を打ち明けれる相手。それは本当に得難いもので、嬉しくて、惹かれていくものですよね。
この漫画は終始、由佳里の視点で話が進みます。
美希を自分とは違うタイプだと思っていた由佳里ですが、ある瞬間にはた、と気付きます。
母親の思い通りになるのがイヤで、自分で自分のやりたいことを選んでできた今の自分。
でもそれは、本当に自分が望む自分だったのだろうか?
自分とは違う美希をこんなにキレイだと思うのに。
、と。
もしかしたら美希は、なりたかった自分の姿なのかもしれない。
呆然とした頭で考えるのは美希のことばかり。それくらいに好きになっていた。
憧れにも似た恋心と自分を汚れていると感じる絶望、美希に彼氏できた時にするであろう想像で、感情はドロドロでグチャグチャになってしまう。
好きだけど、汚れた自分では触れられないと感じてしまう葛藤。これがこの漫画のキモだと思います。
見下していた相手から、大切な友人へ、そして本当の恋を感じられる人へと、恋に落ちていく感情の変化が秀逸で素晴らしいです。
好きだけれど、言えない。
自分は汚れていると感じるし、自分の好きと彼女の好きは違う。
”好き”を伝えられず、それでも誰にも渡したくないくらいの想いが切ない。
本当の本心での”好き”は秘め続けなければならない、そんな百合の感情の形がここにあります。
- 作者: 岸虎次郎
- 出版社/メーカー: ポプラ社
- 発売日: 2008/02
- メディア: コミック
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