倉田嘘先生は「百合姫S」を引っ張るクオリティの高さがあると思う。
昨日の引き続き「百合姫S」VOL.5の感想、私の中で今号の1・2を争うくらいに良かった2作品の感想を。
今号は他に、吉富昭仁先生の「夏の蟻」、石見翔子先生の「flower*flower」が面白かったですよ。
カタコイヒメ / 乙ひより
Sでは初登場の乙ひより先生、やっぱり良い漫画を描かれる作家さんですね。
モテるけれど「好き」っていう気持ちが解らない大石と、報われない恋をしている水野の2人のお話です。
水野が好きな相手ではなく、恋をしたことがない大石が主人公として描かれているのが面白いところ。
水野と話すようになって、水野が好きな相手を知ってしまって、見守って、応援して…。
2人の間に恋愛感情はないけれど、秘密の恋の話をして仲が深まっていったこの話は確かに百合でした。
雨にうたれて「水の中にいると安心する」と言っていた水野を、大石が慰めるためにとった行動が少しズレてて、悲しみを癒す微笑ましさがあったと思います。
その時の大石の動きもちょっとシュールで余計に微笑ましいなぁ。
プレゼント / 倉田嘘
可愛いものが好きな性格だけれど切れ長のツリ目をはじめとして冷たい印象で、周りのイメージ通りの言動をするようになってしまった啓子。
啓子の女の子らしい趣味と話が合い、彼女の優しさに触れて告白した盲目の少女・遙香。
この2人の心の触れ合い、揺れ動きが素晴らしい百合漫画です。
倉田嘘先生は毎回のようにクオリティが高く、独特の空気感があってステキ。
どこか文学的で、閉鎖的な感覚を覚える雰囲気を醸し出しています。
盲目ゆえに外見ではなく自分の内面を見てくれる遙香に好かれ、居心地の良さと充足感を感じる啓子ですが、遙香が角膜移植をすると聞いて動揺します。
イメージと違う自分の外見に幻滅されるのではないかと、手術は成功して欲しい一方で見えないままの方がいいとも思ってしまう。
大切な人の幸せを想いつつ、幼少からのコンプレックスから利己的な考えをしてしまい葛藤するのが良いです。
コンプレックスは関係を、ひいてはその人自身を際立たせるものなんですよね。
だからそれが上手く描かれている作品はとても魅力的。
コンプレックスを乗り越えた時の開放感は、読んでいてある種のカタルシスを感じます。
遙香は盲目だからこそ啓子の本質を捉えていたのに対して、目の見える啓子は見た目のことに囚われすぎて遙香の心の奥までは見えていなかった形になっているのがまた面白いところだと思います。