「メイド諸君!」で間接的に自分の弱さを再認識する



メイド諸君!(4)/きづきあきら+サトウナンキ(Amazon)


きづきあきら先生とサトウナンキ先生、お二方の作品は人の弱さを曝け出し、向き合わせます。
だからこそ、その描かれている”弱さ”に近いモノを持っている読者にとっては痛さを伴うものとなります。
でもそれは、ある意味で優しさでもあるんですよね。
自分の弱さを見せ付けられているようでいて、読者は自分の弱さを直接指摘されているわけではない。
間接的に弱さに触れられ、見つめ直すことができる優しさがあると思います。


描かれている”弱さ”が自分に近くなくとも、人の精神的に深い部分に触れる作品は胸を締め付けるもの。
それがまた痛々しさも感じるんだけど面白くて、病み付きになってしまうんですよね。



メイド諸君!」が完結巻ということで、もう怒涛の展開を見せてくれました。
胸が締め付けられるようでしたよ。
メイド喫茶をテーマとし、主人公の千代子の相手役がオタクであったので、もちろん自分に身に覚えのあることがありすぎました。
痛い、痛い!
でも読んで良かったと思いましたし、何より面白かった。


この作品において、特に精神的な弱さがあったのはあるみと鳥取様でした。
鳥取様がね、オタクでね、それなりにカッコイイ外見で武術の嗜みがあって強いのに、精神的に弱いんですよ。
その”弱さ”がモテないオタクとしては他人に思えないところがあったりなかったり、やっぱりあったりするのです。


読み終えて期間を置いたので普通に感想書けるかなぁ、と思ったけど再読してみるとやっぱり無理そうなので、鳥取視点あたりのことで思ったことをつらつらと。

好きな人は、自分の鏡なんかじゃない

4巻のポイントのひとつは”好きな相手を自分の鏡として見ているかどうか”だと思います。
人を好きになれば、その相手には自分を良く見せたい、良く見せて気にして好きになって欲しい。
それは当然の欲求です。


でも、「相手が自分をどう思うか」ではなく、「相手のことを想っての行動かどうか」が人間関係の構築としてはベターであるというのが4巻で語られたことでした。
相手を自分の鏡としてしまっている場合は「自分を良く見せたい」、「こう言ったら自分をどう思うか」と、自分のことばかりを考えてしまっている、と。
悪く言ってしまえば相手のことを見ていない一人相撲なんですね。
自分も身に覚えがありすぎる上に、好きな人ができたらやらかしがちな行動でもあるので痛かったのですが、改めてこういう形で見せられて初めて気付くこともあるわけです。(だから私はモテないんですね、わかります。)
「純粋に相手のことを想っての行動」がベストだと思うのですが、そうなかなか上手く動けるわけもなく。
でも、それでも、こういったことを知っているのと知らないのでは全然違います。知っていれば思い出して気をつけることもできるから。


踏み出したら足掻き続けるしかない

で、鳥取ですよ。
鳥取は女の子の顔を見ることができない、プライベートで話すことも上手くないタイプの男性です。
当然、女の子と付き合ったこともないのですが、でもだからといって、3巻のあの発言はさすがにないよなぁ…。


チョコと付き合うことになり、色々と脳内でシミュレートします。
しかしこのシミュレートが先ほどの”自分の鏡”の話と照らし合わせると結構な落とし穴だったりします。
片想いだと特になんですが、会いたいでも会えない、話したいでも話せない、となると妄想するんですよね。
シミュレートに近い妄想なんですが、これ、自分の脳内のことなので当然のように”自分の中にある好きな人”が相手です。実際に知っている好きな人に、自分の中で補正をかけた相手なんですよね。
だからシミュレートの通りに行動すると、失敗する。
好きな人のことを、千代子のことをもっと知ろうとしなかった鳥取は失敗したわけです。


知ろうとしなかったのは逃げで、初めからずっと逃げ続けていれば傷付くこともないんですが、鳥取は一歩踏み出したわけです。
踏み出したのに逃げていたから、傷付いた。
何かを得ようとしたら弱さに向き合う必要が出てくることもあるし、手に入れる為には努力も必要。



付き合って失敗して、その後に傷付きながらも形振り構わない4巻後半の鳥取と千代子のやりとりは、ドキドキを通り越してました。胸がぎゅうぎゅう締め付けられてました。
そうして迎えたラストはハッピーエンド…といえばそうですが、現実的でもあって、これがまたきづき作品らしくて良いんだ。

関連

きづきあきら 缶詰の地獄
きづきあきら先生のブログ


メイド諸君! (4) (ガムコミックスプラス) (ガムコミックスプラス)
きづき あきら サトウ ナンキ
ワニブックス
おすすめ度の平均: 4.0
4 「夢の世界」から「現実」へ

メイド諸君! (3) (ガムコミックスプラス) (ガムコミックスプラス)
きづき あきら サトウ ナンキ
ワニブックス
おすすめ度の平均: 4.5
4 猛毒!
4 サトウナンキ流
5 オタクだから痛面白かったです