孤独の中、必要としてくれたのは貴女だった - オクターヴ(1)



オクターヴ(1)/秋山はる(Amazon)


アフタヌーンで連載中の「オクターヴ」、ついに単行本1巻の発売です。
良質な百合漫画で、一度発売延期になった時は相当にショックを受けたくらい、待ってました!アフタ購読してるけど!



私は百合が大好きでして、百合姫も当然好きなのですが、一般誌の百合漫画はまた格別のものがあると感じています。
専門誌である百合姫は色々と制約があると思うんですよね。
例えば、エロ漫画では必ずエロを入れなくてはならず、総ページ数の何割以上という制約があると聞いたことがあります。*1
また、北別府ニカ先生がアスキーで描かれていたエッセイ漫画では、雑誌によっては雑誌カラーに合わせた縛りがあるBL雑誌もある、みたいなことも描かれていました。
専門誌である以上は、専門性を高める為にある程度のガイドラインがあるでしょうね。
なので、実際のところは知りませんし勝手に思っているだけなんですが、百合専門誌である百合姫もある程度の制約があるんじゃないかな、と。
百合と感じられるようなシチュエーションを毎回必ず入れることは必要でしょうし、男キャラを出して物語をかき回すこともしにくいんじゃないかな。



そういう意味で、一般誌に連載されている百合漫画は別種の面白さがあるんですよ。
友情から恋愛感情になっていく過程をゆっくり描くこともできますし、男の存在を強く匂わせて物語に波乱を演出することもできます。
実際、男女間のセックスを含む百合漫画もあります。「それは百合ではなくビアンものだ」と仰る方もいるかとは思いますが。
反面、一般誌に連載される百合”っぽい”漫画は「百合っぽいのは初めだけ」だったり、「男性が出てくると、そのまま主人公(女)とくっついて終わるんじゃなかろうか」という展開が危惧されるわけです。
百合漫画じゃないかもしれない、(百合的に)ハッピーエンドにならないかもしれないという不安があるんですね。確証が持てない。
でも、それだからこそ、「この漫画は百合漫画だ!」と確信できる漫画に出会えた喜びといったら!
そしてそれらは面白い漫画が多いのです。



そうして「オクターヴ」です。(また前置きが長い


この漫画は、売れないアイドルグループとしてデビューし、解散後に戻った地元での周囲の好奇の目に耐えられず再上京。所属していた事務所でマネージャー見習いをしている少女・雪乃を主人公とした物語です。
兄弟が多いらしく可愛い格好ができなかった幼少時代。
「テレビに出たい」「可愛い服を着たい」という思いからアイドルになったのですが、地元に戻ってからの「男に見られたいんだろ」「ヤりまくってたんだろ」といった類の視線や扱いに耐えかねての再上京。
そういった形で孤独感と「埋没したい」という思いとを持っていた雪乃は節子と出会い、自分の本音を引き出し、受け入れて「好き」と言ってくれた彼女と恋に落ちるのでした。



良い恋愛漫画は描写が上手いもので、「オクターヴ」は主人公・雪乃の心理描写にかなり力が入れられているのが解ります。
それはモノローグであり、挿入される過去のエピソードです。
モノローグに関しては本当に至るところで挿入されているんですよね。
自宅や移動中はもちろん、仕事中も。
人との会話の最中、後には記憶を思い起こしているかのように過去のエピソードが入ることも多くあります。
これらは雪乃の内面に向かっているもので、考えていることは沢山ある、多分本心では誰かに話したい、という意味合いもあるんじゃないかな。
これは節子の「本当は人に見られるの大好きなのにね」のセリフにも通ずる部分だと思います。
で、モノローグが多い(=自分の中で考えている)のは孤独さを強調している感じもありますね。



そんな孤独、地元では好奇の目で見られ、元グループメンバーとはあまり連絡を取っていない中で、自分を必要としてくれたのが節子。
誰かに必要とされたいけれど必要とされないのは精神的にキツイもので、手を差し伸べられたら好きになるものです。
雪乃の場合は地元でのことがあるので軽く男性不信になっていて、語らう状況になるキッカケとともに同性である節子が雪乃の近くにきたのは自然だと思えます。


両想いになってからも第三者の登場で揺さぶるのが恋愛漫画
オクターヴ」の場合はまだ明確に絡んできている第三者はいませんが、節子の男性経験に触れるなど三角関係の準備は整っている感じがします。
今月号のアフタヌーンを読んで思ったことなんですが、実際には出てこなくても第三者の影や、起こり得る自体に思いを巡らせ動揺する雪乃を見るだけでも楽しいなぁ。
雪乃と節子の関係と、雪乃の熟考がこの漫画を楽しむポイントに感じます。

*1:「ゲノム」や「宇則世本」などのエロ雑誌に載ってるエロくない漫画は例外