胸がざわつくほどの、運命の恋愛 - ファムファタル 〜運命の女〜(1)



ファムファタル 〜運命の女〜(1)/シギサワカヤ(Amazon)


恋愛は上手くいかないものです。
上手くできる人の方が少なくて、だからほとんどの人は何とかしようと努力したり、策を弄したりするんですよね。
上手く立ち回れる人が羨ましい…を通り越して妬ましく思えたりします。


人を好きになることに関してもやはり上手くいかない、というと語弊がありますが、キレイじゃない不恰好な形になることもしばしば。
「一目見て、衝撃が走った!」や「一緒にいると安心できる」という形ばかりじゃないですよね。
認められない、自分の意志とは反している、と感じる形で恋に落ちることもあるものです。


「何か気になる」といった程度の意識でも、続いて積もり重なればいつの間にか好意に変わっていることもありますが、それは苦手意識でも起こり得るんですよね。
「あの人といるとペースが崩れる」、「あの人といると心をかき乱されてイライラする」といった苦手意識があってもやはり気にしてしまって、ふとした時にでも忘れられなくなってしまう。
その相手が異性だったりした日には、気付いたら「あれ?もしかしてあの人のことが好きなんじゃ?」となっているかもしれません。
”苦手”から”好き”にシフトするのに何かしらの出来事があるものだと思いますが、ひっくり返って好きになるのって普通に好きになるより想いが強いような気がします。
ファムファタル」の主人公のハイくんはそんな恋愛をしています。
いやぁ、「”好き”の反対は”嫌い”ではなく、”無関心”」とはよく言ったものです。

好きな人には、恋人がいる

大学生の斉藤一と海老沢由佳里のファーストコンタクトは良いものではありませんでした。
斉藤のあだ名が”ハイ”なのは、海老沢さんが「斉藤…ハイフン?」と彼の名前を読んだからというのだから酷い。
それ以来、3年になってサークルの部長になっても”ハイくん”で後輩にも”ハイさん”と呼ばれる始末。
部長なのに先輩からも後輩からもイジられるようなポジションのハイくんでした。


海老沢さんは天然マイペースで、だからこそタチが悪い。
サークルの人間が男女含めてハイくんの家の泊まった時に、遠距離恋愛をしているハイくんの彼女からの電話に海老沢さんが出て、破局
海老沢さんはハイくんにとって、”人生を蝕む運命の女”とはオビの謳い文句です。
初対面からハイくんは海老沢さんが気になっていたみたいですが、個人的にはこの破局の一件がより強く意識するようになったキッカケだろうと思います。
ハイくんはフラれてフリーになったしね!
でも、海老沢さんには彼氏いるけどね!



そうなんですよ、海老沢さんには恋人がいるんですよ。横恋慕なんです。
というか、ハイくんは海老沢さんのことを好きだと自覚していません。
周りにはバレバレなのに。読んでるこっちにもバレバレなのに。
その自覚のなさとままならなさ、彼女に恋人がいるという事実がヤキモキするんです。
読んでて胸が苦しくなる。


海老沢さんはハイくんの先輩で、彼女の彼氏はさらに先輩の社会人でハイくんと面識があり、サークルの飲み会などで今でも会ったりします。
そして先輩・後輩はハイくんの気持ちを知っていて、それならばその彼氏が気付いていてもおかしくない。
…というか、飲み会の席の流れで告白してしまった時にきてしまったという。
ああもう、ドロドロだよ!
でもそれが面白いんだよ。

世間は、思惑で満ちている

先輩のみならず後輩にまでイジられるハイくんは、それだけ魅力があり人望があるといえます。
嘘をつくかもしれない、黒い部分もあるかもしれない。でも、真っ直ぐで素直といえる人間だから。
遊び半分であっても、全員が彼の恋を応援すると言ってくれるのは非常に幸せなことだと思います。
それはハイくんが信頼されているということで、逆に言えば彼が人を信じることができているからとも。


しかし、ハイくんと海老沢さん以外の人は色々と胸の内で考え、あの手この手を計算して行動しています。恋愛的な意味で。
普通の人は誰だってそうだと思うんですが、それを実行できるのが上手く立ち回れる人なのかなぁ。


海老沢さんも天然でマイペースなんですが、状況処理能力が高すぎると作中で言われている通りで、受け流す能力に長けすぎ。
ハイくんの気持ちを知っていて流したり、誘ったりしているように見える。
でも、全然見当違いなことを言っていたりもする。
こういう人を好きになると厄介でしょうね。
でも、どうしようもなく惹かれて仕方ないんだろうなぁ。



”運命の女”という副題からは、ハイくんと海老沢さんがくっ付くか、フラれるならば以降の恋ができなくなるか、もしくは人生観を変えるくらいの出来事になりそうな気がします。
恋人がいる人への横恋慕、その恋人達は上手くいっていない、という状況がどうしようもなく胸をざわつかせてくれるのです。
シギサワ先生の恋愛ものは、そのざわつかせてくれる感覚が醍醐味ですね。


それにしても海老沢姉妹の中で、由佳里さんは惚れたら間違いなく一番大変そうだなぁ。