BLの面白さは人間関係の面白さ - イルミナシオン



イルミナシオン/ヤマシタトモコ(Amazon)


ヤマシタトモコ先生の4冊目の単行本「イルミナシオン」を読了しました。
やはり面白い。


昨日読み終えてたんですが、面白いけど個人的に感想書きにくい系統の漫画だなぁと思いました。
面白いけど、自分が感じたもののつかみ所がいまいち定まってないような、そんな感じ。
登場人物の人間関係・感情の動きの妙といったものが面白く、そういった面白さの大好きな漫画は多いのですが、なかなかにアウトプットが難しいものです。
あと、自分が男なので的外れな感想になるんじゃないかという懸念があって見送ろうとも思ったのですが、つらつらと書いていこうかな、と。



この単行本は3篇からなる表題作「イルミナシオン」と、4本の短編、それに描き下ろし後日談を3本収録しています。
その描き下ろしがですね、やたらめったらコメディノリで楽しいの何の。
基本的に本編がシリアスベースなので、そのギャップによる可愛さが微笑ましい。
ちなみに描き下ろし後日談は、「イルミナシオン」、同じ男子に片想いする男女の「ばらといばらとばらばらのばらん」、ヤクザものの「神の名は夜」の3本です。

「イルミナシオン」の面白さ

表題作「イルミナシオン」は3人の男のお話です。
人間関係がおっくうに感じているミキと、ミキの幼なじみで女たらしの直巳、飲み屋でミキが知り合った年下のゲイの須戸。


彼女もできずセックスもせず、かと言って出会いがないとかそういうのではなくて言い寄ってくる女性はいるんだけど、そういう気持ちになれない。
AVを見れば勃つけれど、身体と心が乖離しているような感じ。
それがミキこと幹田隆氏の現状で、気がつけば気になっているのは幼なじみの直巳で「もしかしたら俺、ホモなんじゃね?」と自分に対して疑念を抱きます。
一人で飲んでいたところに声をかけられ、その疑惑の話をした相手の須戸に「試してみる?」と抱かれてしまい、自分の気持ちなのにもうわけがわからんという状態に。
須戸が飯を作りにしょっちゅう訪ねてくるし、直巳にヤったことを知られるしで、人間関係が妙なことになってしまいます。


この「イルミナシオン」は3話構成なんですが、面白いのがそれぞれの話がミキ・須戸・直巳のそれぞれの視点で進むところ。
彼らそれぞれのプロフィールから導入し、視点もモノローグもそれぞれのもので進みます。
メインとなる順番として、ミキ(自身にゲイ疑惑を持つ)→須戸(ゲイ)→直巳(ストレート)の順なのがまた面白い。
好きになってはいけない相手を好きになり人付き合いが億劫になっているミキ、誰からも本心では好かれない須戸、26年の付き合いの幼なじみに拒絶された直巳、とそれぞれがそれぞれに孤独を抱えています。
触れて大切だと欲したり、無くしかけて初めて大切だと気付いたり、色恋が絡むと特にままならんものですが、こういう話にはこの漫画のような締め方は合っていると思いました。



男女でも、男同士でも、女同士でも人間関係が面白いもので、BLに於いてももちろんそうなのですが、同性だからこそという面白さがあるんですよね。
性差を乗り越えた上での関係という面白さとは別に、男女だと生々しすぎて純粋な楽しみ方ができない場合もあります。
その生々しさから読者の胸によぎる黒い感情や、胸が締め付けられる感じが面白さになっている作品も多いんですけどね。
「イルミナシオン」は、好きな相手がいる人を別の輩が抱き、それを抱いた輩が抱かれた人の意中の相手に言う、それだけみればドロ沼で、男女ものだと多分かなりドッロドロな感じがすると思います。
しかし、3人とも男だと生々しさが薄まって感じるのか、人間関係が際立って見えます。
全員が女でも同様に人間関係が際立つんだろうと思いますが、この辺はBLの方が一日の長があると思います。


同時収録の短編も面白いよ

他に4本の短編が収録されているのですが、どれも面白い。


「ラブとかいうらしい」はベランダの片隅という狭い限定的な空間だけで展開するのが良いですし、ヤクザものの「神の名は夜」は青年漫画の文法で描かれたデビュー作ということで確かに違う感じがします。


で、短編で特に面白いと思ったのは「ばらといばらとばらばらのぼたん」と「あの人のこと」。
「ばらと〜」は女性の視点で進む話で、「あの人のこと」は男女入り混じった視点が切り替わっていく形。
どちらも登場人物達を繋ぐ、話の主軸となっている人物そのものには直接的にはスポットがあたりません。
むしろ、その”ほぼ登場しない”主軸の人物をキッカケにした周囲の人達を描いています。
そういう人間関係の描かれ方も面白いんですよね。


イルミナシオン (mellow mellow COMICS) (mellow mellow COMICS)
ヤマシタ トモコ
宙出版
おすすめ度の平均: 5.0
5 間違いない
5 「いいか おれは誰も好きじゃない」
5 余韻
4 ちょっとダメな普通の男達
5 次の作品が待ち遠しい