シリアスからコメディまで、SF好きでなくとも面白い作品集「HOTEL」



Boichi作品集 HOTEL/Boichi(Amazon)


890円という値段からA5判と思い込んでいたこともあって、発売日に行きつけの書店で見つけられなかった(というか、置いてなかった気もする)Boichi先生の「HOTEL」をようやく購入。
「サンケンロック」の隣にあった。一般的な青年コミックスと同じサイズです。
それでこの値段は高いとも思ったのですが、22ページ分で雑誌掲載時のカラーページを再現していますし、読んでみるとそれほど高くは感じませんでした。
表紙も特殊加工されていますし、なにより面白い。



この作品集は、モーニングに掲載された「HOTEL-SINCE A.D.2079-」「PRESENT」「全てはマグロのためだった」の3作と、MANDALAに掲載された「Stephanos」「Diadem」,
描き下ろし2ページ漫画を4本収録しています。
モーニング掲載分はSF、MANDALA掲載分は宗教オカルト色のある漫画です。


モーニングで私が読んだことがあったのは「PRESENT」と「全てはマグロのためだった」で、「HOTEL」は未読。
「マグロ」は割と最近モーニングに掲載されたので記憶に新しく、本来の目的とズレたところで大成果を収めるのが面白かった作品です。
その時に『「HOTEL」も面白かったよ』と聞いていたので、短編集が発売されるのを楽しみにしていました。


結果的には「HOTEL」を未読でも「マグロ」で興味を持てて良かったと思います。
というのも、「HOTEL」も「マグロ」もスケールがデカイのですが、「HOTEL」は時間的にも10万年単位以上のスケールの大きさのシリアスなSFで、SF者ではない私にはちょっと敷居が高くて雑誌で読んだとしてもそれっきりだったと思うので。
「全てはマグロのためだった」はコメディノリで、地球最後のマグロを食べた少年が大きくなって絶滅したマグロを復活させようと様々な研究をし、その研究でマグロ復活は果たせないものの別分野で画期的な成果を上げていく、というSF。
SFに明るくなくとも楽しめるライトな作品で、これが一番後にモーニング掲載されて記憶に新しいのは売上的な意味でも良かったんじゃないかと。



で、「HOTEL」ですよ。
これが凄い面白かった!
温暖化により地球の温度は100度を遥かに超える未来を見越して、僅かな望みを託して17万年先の宇宙に方舟で人類のDNAを送り、地球では贖罪として人類以外のDNAを保管した塔を建造する。
その塔が「HOTEL」で、この作品の主人公は塔の管理をしている人工知能
生まれてすぐの生みの親達の計画の姿、別れの時を記憶し、彼らの願いと約束を持って、激しく変化する地球環境への対応と朽ちていく自身の修復を繰り返していきます。
何万年規模の時間の中で淡々と客室の中にあるDNAを、生みの親である父と母(=博士たち)との約束を守る彼に、人間ではない彼に感動しました。


ちなみに「HOTEL」と「マグロ」では1コマ共通のコマがあり、その出来事に対する対応で未来が変わったのかと思うとニヤリとします。
少年にマグロを食べさせたのは本当に意味のあることだったんですね。



描き下ろしの2ページ漫画も含めて、かなり幅広い作風の漫画を収録していて面白いです。
オススメの短編集ですよ。