受け継がれ、再生していく物語。「水惑星年代記」最終巻「月娘」。



水惑星年代記 月娘(ルーニャン)(Amazon)
大石工画店(作者サイト)


美しい自然、懐かしい風景、そして遥かなる宇宙と人間を描くオムニバスシリーズ「水惑星年代記」も最終巻を迎えました。
その名も「水惑星年代記 月娘(ルーニャン)」。


今までの「○水惑星年代記」というネーミングではない最終巻は、そのタイトルの通りに「月娘」の話で一冊が構成されています。
時系列も掲載順で、表紙も今までとは違い月をバックにした宇宙。ヨミコが立っているのは火星なのかな。
何にせよ、既刊とは一味違う最終巻です。



水惑星年代記」はオムニバス形式のシリーズなので、基本的にどの巻から読んでも楽しめます。
それは最終巻である「月娘」も同じで、人間関係などの知っているとより楽しめる要素はもちろんありますが、いきなり「月娘」だけ読んでも楽しめることでしょう。
数字で巻数表示をしていないのは”どこから読んでも楽しめる”という意味合いがあるのかも、とふと思いました。
最終話で「久しぶり」と言われる人物も、他の巻から持って来ていないですしね。



「月娘」は、月生まれ、月育ちの生粋の”月娘”であるヨミコ・ブラックが火星を目指すお話。
ファーストネームはブラックですよ、ブラック家!
水惑星年代記」にはブラック家の話が多くあって、最後を締めくくるのはやはりブラック家に連なる者。フィオナ達もほぼ総出演という感じでニヤリとします。
アワーズの付録になっていた年表もより詳しくなって相関図と合わせて収録されており、本筋のストーリーはブラック家に係る人達の話なんだと判ります。
こういうリンクは好きな人には堪らないんですよね。
また、年表で未確認エピソードになっている「FOXY PAINTER」が今後の作品で描かれることを期待せざるをえません。



で、ヨミコが火星を目指すお話は、月軌道上に月の学校、月面、地球に海底での試験、火星とまさに冒険。
生まれも育ちも月の人達は地球に下ろされないように学生でもしっかり仕事をしている設定や、地球の重力に戸惑うヨミコに、月面や火星上での諸々、最終話の出来事まで、基本的な舞台が宇宙なので既刊よりもより細かいところで宇宙をヒシヒシと感じられます。
なんだろう、生活に直結している、宇宙の中で生きている感じがして心地良いんですよ。
宇宙も、地球も月も、人間だって自然の一部なんですよね。
生物は進化して、人間だって進化していく。
進化は世代交代の連なりで、親から子へ続いていく。
「月娘」だけでも楽しめると書きましたが、ヨミコが表紙で抱えているのはあの”フィオナの木”で、やはり「月娘」は「水惑星年代記」の最終巻に相応しい物語だと言えます。



宇宙や自然をバックにコマをぶち抜いて描かれる人物達に、宇宙や自然の広大さと歩んでいく人間の姿を感じたシリーズでした。
水惑星年代記」は完結していまいましたが、大石先生の新連載もアワーズに掲載されますし、「月刊サチサチ」も単行本が出るそうなのでファンとしては寂しさよりも嬉しさがありますね。