谷川史子先生の心に沁みる短編集「手紙」



手紙/谷川史子(Amazon)


谷川史子先生の短編集「手紙」が発売になりました。
表題作「手紙」に「ソラミミハミング」と「河を渡る、きみと歩く」の3本の短編、それに谷川先生のうどん愛を描いた4ページ漫画「我が家の食卓」を収録しています。
可愛らしい話、切ない話、心温まる恋愛に失恋話と方向性は異なりますが、やはりどの作品も心に沁み入ります。
谷川先生の漫画は良いわぁ。


どの作品もなんですが、読んでいると途中でふと大まかな先の展開がわかるんですよね。
「これってあの人のことなんじゃね?」とか「これは○○なんじゃ」とか、そういうことに気づく。
で、その気づいたことは確かにその通りなんですがそれだけが結末ではなくて、また別の要素と絡んだ展開を見せてくれます。
構成として”気づかせる”伏線がある作りになっていて、それが思った通りだった気持ち良さとそれだけではない面白さを併せ持っていると感じます。
さすがベテランという面白さ。谷川先生は短編の名手ですね。



3本の中で個人的に好きなのは「手紙」。
引っ越すことになった女子大生の素子は引越し先のポストに投函されてきた手紙を見つけます。
母親からかー、と思ったその手紙は前の住人宛のものだったのですが、酔っていた勢いで他人になりすまして返事を出してしまいます。
んで、返事が来た。
しまったと思いつつも、返事の手紙の内容も添えられた自画像も可愛くて、ついついまた返事を出してしまい、そういうやりとりが何回が続きます。
お母さんが本当におちゃめというか可愛らしい人で、「シャケは川で捕獲しておきます」と一緒に描かれた熊みたいに鮭を獲ろうとしているイラストが面白いのなんの。
息子を騙って他人の母親を笑うなんて、酷い主人公だと一瞬思ったものですが、このお母さんは確かに面白いわ。
なんというか、ソフトなサムライカアサンといった感じでしょうか。
すごく心があったかくなる。
素子の引越しがちょっとワケありだったこと、素子の母親が過干渉で頻繁に電話をかけてくる人だということで、少し疲れていた素子にとって手紙のお母さんは日常の楽しみのレベルにまでなって、さらには実母との関係を見つめ直させられることに繋がっていくのが良いんですよ。



他2本も面白く、「河を渡る、きみと歩く」は単行本の約半分のページにわたる作品で読み応えがあります。
恋人のもとを知られないように去っていく女性、という始まり方をする作品で、過去の回想とともに導かれるようにして展開するのがいい。
良い漫画を見せて貰いました。