未発表作品、百合短編などを含む珠玉の短編集「曲がり角のボクら」

曲がり角のボクら/中村明日美子(Amazon)
明日美子ビヨリ。(作者サイト)

私は中村明日美子先生の漫画が好きで好きで、去年は原画展にも行きました。
エロティックな「2週間のアバンチュール」も良かったですし、王道BLで人気を博した「同級生」も爽やかで面白かった2008年の単行本の中でも、私が好きなのは「片恋の日記少女」。
明日美子先生初の少女漫画単行本で、エロティクス・エフ掲載の作品しか知らなかった私はそのあまりの雰囲気の違いに衝撃を受けたものです。
作風の幅が広い作家さんは素晴らしい。
確かな少女漫画でありながら、一捻り効いた設定やネタもツボです。

そういうわけですから、新刊の「曲がり角のボクら」も心待ちにしていました。
「片恋の日記少女」と同じく、メロディに掲載された読切を収録した短編集です。
少女漫画デビュー作の「阿部くんと黒羽さん」、未発表の投稿作「となりの吸血鬼」が収録されているのが嬉しいじゃないですか。
短編集ということで作品の幅は広く、生徒と教師の恋愛もの、吸血鬼もの、幼い娘を持つ父親の話、百合、青春群像劇と多彩なジャンルに触れることができます。

恋愛ものでも、生徒と教師の「阿部くんと黒羽さん」では恋愛的には第三者の黒羽さんが視点の主であったり、表題作の「曲がり角のボクら」はスタンダードな恋愛として進むかと思いきや主人公に追い風が吹かなかったりと、王道から上手くややずらした面白さが絶妙。
あとがきでも書かれていますが「となりの吸血鬼」だけはカラーが違っていて、これもまた良い意味で予想を裏切る終わり方で面白い。

そして何より、百合であるところの「さくらふぶきに咲く背中」ですよ！私にとっては！
雑誌掲載時にも感想書いてたのですが、やはり良いです。
ガチ百合ではなく、ひとつの恋愛に諦めをつけなければならず、この話の後が百合になるとしか思えないお話。後日談が読みたい。読みたすぎる。
幼い頃にキスをした相手の女の子に偶然再会、また会うようになってキスした過去がちらついて気になるものの、女同士ということで踏み込まず。
当の相手は「禁断の恋をしている」と、相手は女だと言い、主人公は気になる幼馴染の恋の行方を見てしまうというね。
幼馴染の娘の恋も捻られていて、言葉通りでない本心がかえって生っぽい感情に見えて良いのですよ。
大きな恋が終わったけれどそれはひとつの恋にすぎず、前向きな爽やかなラストなのがよろしゅうございます。しかも百合。
あとがきで「女の子モノはいつか描きたい」と仰っていまして、もう是非描いてください。是非。

他に好きなのは「みんなきらきら」。
娘を持つ父親が言われたいセリフNo.1は「パパのお嫁さんになる」とのことですが、それをホスト風保父さんに取られてしまった父親のお話。
親子ものも少女漫画の主流のひとつなんですよね。
娘を挟み、父親と保父をメインとした人情あり笑いありの短編で面白うございました。

まだ単行本未収録の読切はありますし、たびたびメロディに掲載されているので次の短編集も心待ちにしています。