「楽園」の鬼才・平方イコルスンさんの「成程」が色々凄い。

成程
成程
posted with amazlet at 12.08.16
平方 イコルスン
白泉社


平方イコルスンさんの単行本「成程」を読了しました。
「楽園」を購読していて面白く読んでいたのですが、まとめて読むとやはり凄い。
色々な意味で鬼才という他ありません。



何が凄いかというと、どう考えても唯一無二の作家性があるということ。
単行本タイトルの「成程」ですが、読切作品の各話のタイトルの感じからするとらしいタイトルでなるほどなのですが、よく考えても何で「成程」なのかさっぱりわかりませんでした。
つまりそういうことなのです。


基本的に4ページ程度のギャグ読切で、端的に言えばシュール・ナンセンスといえる作風で、独自の世界観があります。
世界観とは言っても、登場人物は女子高生や女子大生などの現代日本が舞台となっている(はず)ので、世界観を感じさせるのは表現のありとあらゆる部分から感じさせられています。
これが凄い。



百聞は一見にしかず、ということでweb楽園という無料で読めるweb漫画がありまして、今回のweb楽園では7/31更新分で平方さんの漫画が読めるので、一度読んでみるとわかりやすいと思います。
(次回のweb楽園のカレンダー自体が更新されるまでは読めます。)

http://www.hakusensha.co.jp/rakuen/vol9/trial/31_hirakata.html


何かすごいでしょう?
味のある表情を見せる登場人物、背景、コマ割り、手書きのセリフ、セリフ回し、内容。
それらが独自の世界観を醸し出していて、決して万人受けする漫画ではありませんが、ハマる人はどっぷりハマる。
そういう魅力のある作家さんです。



個人的にセリフ回しや言語センスが好きで、楽園に初登場した「汚れるな、歯」(もうこのタイトルのセンスがすでに凄い)の、「コップなど貸してもらえると」や「私の不徳のいたすところで…」のセリフで、すげぇ!と思ったものです。
仮にも女子高生の漫画で、「不徳のいたすところで」なんて普通出てきません。
この言語センスが手書きでのセリフや、手描き感が強いやや歪みのある枠線、密度の高めなコマ割りと相まって、唯一無二の世界観を作っています。
それだけにWebの方の漫画は若干の読みにくさを感じていたのも事実ですが、単行本の版型がB5で楽園本誌と同じサイズで読みやすいのが嬉しい。



楽園掲載第1作目が「汚れるな、歯」というそれだけで目を引くタイトルなことには触れましたが、やはりタイトルのセンスも、凄い。
大まかに、「汚れるな、歯」のようなタイトルだけでは漫画の内容がさっぱりわからない…というかタイトルの意味がそれだけではさっぱりなものと、シンプル過ぎて漫画の内容がやっぱりさっぱりわからないものの2種類に分かれると考えます。
個人的に前者だと「とっておきの脇差」や「体液くらべ」、「鼻毛に頼る」、後者だと「去来」や「装備」、「発掘」あたりが好きなタイトルですね。
どちらの場合も、タイトルのある1コマ目からでは内容が予想できないので、目を引くタイトルですし読んでいて引き込まれます。


シンプルなタイトルの漫画の方が、読み進めていても一読ではタイトルの意味がわからないものが多い印象で、よく考えると「ああっ!そういうことか!」と解る漫画が多い気がします。
シンプルすぎたんだ。
というか、オチの意味そのものが一瞬わからないものもありました。
それも考えれば解るものが多く、なるほど、だから単行本タイトルは「成程」なのかもしれません。



「考えればオチの意味が解る」と書きましたが、そもそもの作りとしてそういうレベルの構造ではありませんでした。
冒頭から唐突にすでにおかしい展開だったり、おそらく意図的に説明が足りてなかったり(これらも最後まで読めだり、考えたりすれば解るのですが)、激しい話題の転換があったり、オチに行くまでに端的に言って「ツッコミどころが多すぎる」展開をしていてその、凄い。


特に「とっておきの脇差」が秀逸だと思います。
ネタバレになるので詳しくは説明できませんが、「まさかくさりがま忘れたん?」「パーキングに売ってるかなー」という冒頭のセリフが特に説明もないままあって、何の話なんだと思わされました。


「需要の推移」も好きで、丸々1ページちょい「かつて一度だけラブレターを貰ったことがある」だけで掛け合いを展開して、そう思ったら全く違う話題に転換して、この漫画のオチがまた考えても意味がわかりません。
さらに話題を変えた上で「意味がない」というオチかもしれませんが。



兎にも角にも、発想が凄すぎて唯一無二の鬼才としか思えない平方イコルスンさんの漫画は一読の価値アリです。