「2週間のアバンチュール」に百合を感じるのは邪道でしょうか
中村明日美子先生は爽やかな恋愛も、立ち昇るエロティックな色気がある話もどちらも上手い作家さんだと思います。
「片恋の日記少女」では少女漫画の明るさと切なさ、BLレーベルの「同級生」では思春期の切ない恋愛があります。
その一方でエロティクス・エフに掲載されている作品は、どこか絡みつくようなドロリとした”性”を感じます。*1
雑誌カラーもあるんでしょうけど、その雰囲気の描き分けは見事。
というわけで、エロティクス・エフに掲載された作品の短編集「2週間のアバンチュール」です。
表題作「2週間のアバンチュール」を2編、BLである「ばら色の頬のころ」の番外編と、性転換ものの短編「ヒメコちゃん」に「トースト考」を収録。
うちのサイト的に語るべきは「2週間のアバンチュール」ですね。
2週間のアバンチュール
「2週間のアバンチュール」は少女・アンジュの林間学校での2週間の話。
南仏編と修道院編の2編があります。
アンジュは黒髪ショートで切れ長の目の、まだ幼い少女。
おおよそ年頃の少女らしくない冷めた表情の通りの冷静さがある性格。
「2週間のアバンチュール」はアンジュと林間学校で出会った少女の関係を描いています。
そしてアンジュの少女への対応は、初潮前の少女とは思えないほどに冷酷。
いや、幼いからこそのこの冷酷さなのかもしれません。
性格もあるにせよ、幼さゆえの毒でしょう。
彼女の幼い毒が、少女を傷つける
南仏で出会った自信に溢れワガママな少女のローズに、彼女の嫌いなレーズンを押し付けられ、悪口を言われるアンジュ。
アンジュのローズへの仕返しは、寝ている彼女への報復、そして、水泳を教える危険な大学生をけしかけるというもの。
報復にしては陰湿ですが、アンジュは大学生をけしかけた、その行為がどんなことなのか知っているのか知らないのか*2…そういった不気味さを感じます。
ラストのアンジュの返事がハキハキしているのも不安定感を煽ります。
修道院編では人見知りで内気な少女のマリー・ルーと出会います。
南仏編とは打って変わって、彼女はアンジュに懐きます。
それでも、初潮のきたマリー・ルーを「悪魔に取り憑かれた」と言い、除霊と称して自分の知識欲を満たすアンジュ。
アンジュにとっては、マリー・ルー本人よりも、自分のよく知らない生理を調べることに興味があるという、なんとも胸がもやもやするこの感じ。
南仏編は自分に悪意を向ける相手への報復であったのに対して、マリー・ルーに対しては一度受け入れた上で突き放す形になっているので、もやもやとした読後感がより強く感じるんだと思います。
本人も酷いことと知ってやっていると思うんですが、身近でない相手に大人の目の届きにくい場所である林間学校で、子供の好奇心を抑えるものがなかった、と。
アンジュの感情が大きく動かないこと、悪びれない終わり方が不気味さがありながら、読後感の悪さを薄めている感じすらします。
そして、それでもアンジュにミステリアスな魅力を感じてしまうのも事実。
そう感じるのが読者に対する毒なのかもしれません。
百合を感じてしまった
百合を”少女間の関係性”と考えるならば、「2週間のアバンチュール」も百合と言えるかもしれません。
マリー・ルーのアンジュへの感情があることですし。
もちろん、中村明日美子先生が百合を意識して描いてはいないと思いますし、読んで百合を感じるかどうかは人によって違うことでしょう。
でも、個人的には恋愛だけでない”女の子の関係・感情”にも百合を感じます。*3
少なくとも修道院の方は百合を感じました。
こういうアプローチで百合、という作品があっても面白いんじゃないかと思います。
明日美子先生の意図する読み方ではないでしょうけれども。
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中村明日美子先生公式サイト
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